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岡山地方裁判所 平成5年(行ウ)14号 判決

原告 平本末子

被告 岡本県知事

代理人 森岡孝介 米田和弘 松永楠男 清水博志 ほか五名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成三年八月二七日付けで原告に対してした扶助料請求却下決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、亡大橋義男(以下「義男」という。)と、昭和二七年七月四日に婚姻し、義男が平成二年五月三日に死亡するまで同居し、義男により生計を維持し、義男と原告は生計を共にしてきた。

2  義男は元公務員であったので、被告から恩給を受給していた。

原告は、平成二年五月九日に、義男が平成二年五月三日に死亡したため、恩給受給権が消滅した旨の届出をなし、恩給証書を被告に返還した。

3  原告は、被告に対して、平成三年七月三一日、恩給法(以下「法」という。)に基づき恩給受給権者義男の死亡に伴う扶助料請求をしたが、被告は原告に対して、平成三年八月二七日に、原告と義男とは法律上の婚姻関係になく、法七二条一項の遺族に該当しないとの理由で、右請求を却下した(以下「本件処分」という。)。

4  原告は、本件処分に対して、平成四年一月六日総務庁恩給局長に対して審査請求をしたが、平成四年九月三日に右請求が棄却されたため、平成四年一一月一一日に再審査請求を総務庁長官にしたが、右長官は平成五年三月二六日に、右請求を棄却する旨の裁決をした。

5  原告は、義男と昭和二七年七月四日に婚姻し、義男が平成二年五月三日に死亡するまで同居し、義男により生計を維持し、生計を共にしてきたものであり、恩給法七二条一項の遺族に該当する。

6  大橋文与(以下「文与」という。)は、義男に無断で、昭和二九年一〇月一八日に虚偽の婚姻届を提出して、義男の法律上の妻になったもので、文与と義男の婚姻届は無効であり、原告は、法律上も事実上も義男の妻である。従って、原告は法に基づく扶助料を受給すべき地位にあるものというべきである。

7  よって、原告の扶助料請求を却下した本件処分には法七二条一項の規定の解釈適用を誤った違法があるから、その取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実上、平成二年五月三日に義男が死亡したことは認めるが、原告が義男と昭和二七年七月四日に婚姻したとの事実は否認し、その余の事実は不知。

2  請求原因2ないし4の各事実はいずれも認める。

3  請求原因5の事実中、平成二年五月三日に義男が死亡したことは認めるが、原告が義男と昭和二七年七月四日に婚姻したとの事実は否認し、その主張は争う。

4  請求原因6の事実中、昭和二九年一〇月一八日に、文与と義男の婚姻届が提出され、文与が義男の法律上の妻になったことは認めるが、右届が義男に無断で提出されたことは不知。その余は争う。

5  請求原因7及び8の主張は争う。

三  被告の主張

被告のした本件処分は、次のとおり適法である。

法七二条一項は、その遺族の範囲を、公務員の祖父母、父母、配偶者、子及び兄弟姉妹にして公務員の死亡当時これにより生計を維持し又はこれと生計を共にした者としている。

右条項に規定する配偶者とは、例外的に、法律上の婚姻関係があったとしても、離婚と同視しうるような特段の事情があれば除外されることはありうるが、そうでない限り、公務員と法律上の婚姻関係にある者に限られ、内縁の妻は含まれないと解される。

本件において、義男は、昭和二九年一〇月一八日に文与と婚姻届をなし、以後義男が死亡するまで、文与は義男の配偶者の地位にあったものであり、一方、原告と義男は婚姻届をなしたことがないのであるから、義男の死亡当時の法律上の配偶者は文与であって原告でないことは明らかである。したがって、被告が原告のなした扶助料請求に対し、原告が義男にかかる扶助料受給権を有しないとした判断は正当であり、何ら違法はなかった。

また、仮に、義男と文与の婚姻関係が無効であり、かつ、原告が義男の内縁の妻であったとしても、それは、文与が義男の配偶者といえるか否かに関する事情にすぎず、原告が法七二条一項の配偶者と解すべき理由とはならない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因2ないし4の事実は当事者間に争いがなく、原告が法七二条一項における義男の「配偶者」であり、「遺族」であると認められるか否かについて検討する。

確かに、〈証拠略〉によれば、原告は義男の死亡時において、義男と生計を共にしていたと認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。一方、法七二条一項は、公務員の祖父母、配偶者、子及び兄弟姉妹であって、公務員の死亡の当時公務員によって生計を維持し又は生計を共にしていた者を法における「遺族」とする旨規定している。

しかしながら、法が他の社会保障関係法律と異なり、内縁の妻の受給権について明文の規定を設けていないなど配偶者につき法律婚を重視していることに鑑みると、公務員の死亡当時右公務員によって生計を維持し又は生計を共にしていた事実上の配偶者の立場にあった者であっても、法律上の配偶者と認められない者は、同項の規定する「遺族」にあたらないものと解するのが相当である。

原告については、義男との間で婚姻届をしたと認めるに足る証拠はなく、原告が義男の法律上の配偶者であるとは認められないので、原告は法七二条一項に規定する「配偶者」にあたらず、「遺族」とは認められない。

二  以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 梶本俊明 徳岡由美子 種村好子)

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